さて、回転機械の振動について書きはじめて、いきなりの番外編ですが、
微分方程式の解法について説明しておきます。
私の世代は高校時代に微分方程式の解法を習いませんでしたが、
これから数式を使って振動問題を調べていくにあたり、
微分方程式抜きに記述するのは難しいと感じたためです。
特別難しいことを解説するわけではないので、それぐらいわかっているよ、
という方は読み飛ばしてもらってもよいと思います。
微分方程式とは
微分方程式とは例えば
Adt2d2x+Bdtdx+Cx=D
のような未知の関数x(t)とその導関数(dtdx、dt2d2x等)が含まれる方程式のことです。
記述がくどくなるので、以下導関数dtdx、dt2d2xはx′、x′′のように記述します。
ただしtについての微分であることを明示する必要がある場合などにはdtdxの記述法を使用します。
線形微分方程式
実際は微分方程式には様々な形のものがあり、
それらすべてを一つの解法で解くことはできません。
これが微分方程式の難しいところですが、ある特定の条件を満たしている微分方程式には
解法が確立されています。
それが上に書いた「線形微分方程式」です。
線形微分方程式は先ほど例に挙げた
Adt2d2x+Bdtdx+Cx=D
の様な形の方程式のことです。(A、B、C、Dは定数)
名前の通り未知関数(dt2d2x、dtdx、x(t))の線形和で構成されている方程式です。
(実際には線形微分方程式の「線形」は解が線形和になるから、だそうです…)
線形性についての説明はくどくなるので省略しますが線形和とはAx+Byの様な、
変数(x、y)の定数倍同士の和(差)で構成された数式のことだと思ってもらえば
問題ありません。
(ついでに線形は線型と書かれる場合もあります。)
まずはその中でも簡単な同次(斉次)線形微分方程式について説明したいと思います。
私は同次と習いましたが、斉次という場合が多いようです。どちらも意味は同じです。
線形同次(斉次)微分方程式
すぐ上で線形微分方程式は線形和で構成された方程式といいましたが、
右辺のDは未知関数が掛けられていないので、
厳密には線形和で構成された方程式になっていません。
この方程式が線形和で構成された方程式になるのはD=0の時です。
このような右辺が0で未知関数の線形和のみで構成された線形微分方程式を
微分同次(斉次)方程式といいます。
Adt2d2x+Bdtdx+Cx=0
このような微分方程式を解く方法は、まず
x=eλt
と置きます。
高校数学で学んでいると思いますが、この関数の微分は
x′=λeλt,x′′=λ2eλt
となります。これを最初の式(2)に代入すると以下のようになります。
Aλ2eλt+Bλeλt+Ceλt=0
eλt>0なので両辺をeλtで割ります。
Aλ2+Bλ+C=0
λの二次関数になりました。
二次関数の解き方は高校数学(中学数学?)でも習っていると思います。
因数分解で解くか、一般的な解法をするならば以下の公式で解くことができます。
λ=2A−B±B2−4AC
二次方程式の解は一般には2つ存在します。
同様に2階の微分方程式(2階の導関数dt2d2xを含む微分方程式)には2つの解が存在し、
これらの線形結合(線形和)が一般解になることが知られています。
(数学は専門ではないのでこの辺りの証明については書けません。)
具体的には、式(4)を満たす2つのλをλ=λ1,λ2とすると2つの解は
x=eλ1t,eλ2t
であり、一般解は
x=C1eλ1t+C2eλ2t
となります。(C1、C2は定数)
一般解なので、式(7)を満たすxであればどのような式でも当初の式(2)を満たし、
逆に式(2)で表されるのであれば式(7)で表されるxを満たすということになります。
これは式(6)にはない性質です。
式(6)⇒式(2)は成り立ちますが、式(2)⇒式(6)は成り立たないため、
式(6)は特解と呼ばれる特殊な解です。
ただしこれらの線形和をとると一般解になること言うことが保証されています。(重解の場合を除く)
(これが上の方に書いた「同様に2階の微分方程式~…」の意味です。)
以上が線形同次(斉次)微分方程式の解法になります。
線形非同次(斉次)微分方程式
これまで説明してきたのが線形同次(斉次)微分方程式なので、
線形非同次(斉次)微分方程式は式(1)の右辺D≠0である場合となります。
右辺Dが0でない場合、先ほど説明した方法で解を得ることができません。
しかし、線形非同次微分方程式の一般解は、式を満たす1つの特解と、
右辺D=0とした同次微分方程式の一般解の和で表されるということが知られています。
(こちらも証明等はしません。)
式を満たす1つの特解とはどういうことなのか説明したいと思います。
例1
x′′−2x′−3x=3t2−5t+4
このような微分方程式を考えます。
これを満たすxを考えます。xの導関数の和(差)をとってtの2次関数になるxです。
tのn次関数を微分する場合、各項の次数は微分するごとに下がっていき、
定数項の微分は0になります。
右辺はtの2次関数なのでxをtの2次関数と想定しておけば、左辺も右辺も2次関数になり、
良い解が見つかるのではないかと思います。
つまりxを以下のように仮定します。
x=At2+Bt+C
(A、B、Cは定数で、式(1)のA、B、Cとは無関係です。)
これを実際に式(8)に代入すると
x′x′′=2At+B=2A
より、
−3At2+(−4A−3B)t+(2A−2B−3C)=3t2−5t+4
各次数の係数を比較すると
−3A−4A−3B2A−2B−3C=3=−5=4
なので、
ABC=−1=3=−4
xs=−t2+3t−4
がこの微分方程式の特解として得られました。
元の式(8)に代入してみると(左辺)=(右辺)が成り立っているはずです。
このようにして特解を一つ見つけ出します。
また、右辺を0として同次微分方程式の一般解は
x=C1e−3t+C2et
となるので(計算は各自してみてください)、これらを足し合わせた
x=C1e−3t+C2et−t2+3t−4
が微分方程式(8)の一般解となります。
例2
もう一つ、今後振動問題を解くうえでよく出てくる形の微分方程式の特解を求めてみます。
x′′−2x′−3x=2cos(5t)+23sin(5t)
今度は右辺に三角関数が入っている例です。
sin′(At)cos′(At)=Acos(At)=−Asin(At)
なので、微分してもsin、cosは残り続けます。これらを足して式(9)の右辺と
等しくなるようにしたいので
x=Bcos(5t)+Csin(5t)
と仮定して特解を見つけていきましょう。
x′x′′=−5Bsin(5t)+5cos(5t)=−25Bcos(5t)−25sin(5t)
なので、これを式(9)に代入して
(−28B-10C)cos(5t)+(10B−28C)sin(5t)=2cos(5t)+23sin(5t)
各係数を比較すると、
−28B−10C10B−28C=2=23
この連立方程式を解くと、
BC=−17114+53=1715+143
となります。このことから特解xsは
xs=−17114+53cos(5t)+1715+143sin(5t)
が見つけ出せます。
左辺の同次微分方程式は例1と同じなので、一般解xは
同次方程式の一般解と特解xsを足し合わせて
x=C1e−3t+C2et−17114+53cos(5t)+1715+143sin(5t)
となります。
ここで式(9)の右辺は
2cos(5t)+23sin(5t)=4cos(5t−3π)
の様に書き換えることができます。
一般にcosとsinを足した式は上記の様にcosまたはsinのみで表すことができます。
cosの中はrad表記なので、3πは60°のことです。
つまりこの右辺は大きさ4で基準から60°位相が遅れた振動波形ということになります。
振動問題を扱う場合このような形の式が多く出てきます。
定数C1、C2について
これまで微分方程式を解いてきて、一般解の中に定数C1、C2といった未定の係数が
入っていることに気づくと思います。
方程式を解いているのに未定の係数が出てくる???と思う方もいるかもしれません。
実は微分方程式というのはこの方程式だけですべてを決定することができません。
例えば微分方程式は力学などでも用いられます。
位置をxとするなら1階微分x’は速度、2階微分x”は加速度になります。
これを用いて物体の運動を求めるのですが、
このときに、物体のあるタイミングでの位置、速度、加速度が分からなければ、
別のタイミングでの位置、速度、加速度を知ることはできません。
このように、時間に対する微分であれば初期条件、
位置に対する微分であれば境界条件といった別の条件を与えられなければ、
定数C1、C2を決定して完全にすべてが決定された式を得ることはできません。
おまけ:線形同次微分方程式(特性方程式が重解を持つ場合)
λで表した式(4)を線形同次微分方程式の特性方程式といいますが、
この式は重解をもつ場合があります。
重解を持つ場合、特解が1つしか得られないので、これを足し合わせて一般解と
することはできません。
(2階の微分方程式について自由度が1しかないため必要十分にならない。)
この場合は下記の様に一般解を求めます。
特性方程式の解をλ=λ1とすると、
x=C1eλ1t
ですが、ここでC1を定数ではなくtの関数C1(t)とします。
x=C1(t)eλ1t
C1が定数であればxは微分方程式の解ですが、定数でない場合には
微分方程式の解になるとは限りません。
そこで元の微分方程式に代入して微分方程式の解となるようなC1(t)を求めます。
特性方程式が解katex]\lambda=\lambda _{1}[/katex]の重解を持つような線形同次微分方程式は
A(x′′−2λ1x′+λ12x)=0
となります。A=0では等式として意味がないのでA≠0の場合を考え、
両辺をAで割ってしまって構いません。
C1(t)がtの関数なので、xの微分は
x′x′′=C1′(t)eλ1t+λ1C1(t)eλ1t=C1′′(t)eλ1t+2λ1C1′(t)eλ1t+λ12C1(t)eλ1t
となります。これを式(11)に代入して、 (両辺をAで割っています。)
C1′′(t)eλ1t+2λ1C1′(t)eλ1t+λ12C1(t)eλ1t −2λ1(C1′(t)eλ1t+λ1C1(t)eλ1t)+λ12C1(t)eλ1t =0
整理して両辺をeλ1tで割ると
C1′′(t)=0
これを両辺積分してC1(t)は
C1(t)=Cat+Cb
となります。Ca,Cbは定数です。これを式(10)に代入すると
x=Cateλ1t+Cbeλ1t
となります。これは微分方程式の2つの特解
xs=teλ1t,eλ1t
の線形和の形になっており、一般解として必要十分になっています。
つまり式(12)が微分方程式の一般解です。
おまけ2:補足
ここで一応補足しておきますと、2つの特解を
xs=eλ1t,−eλ1t
としてこれらの線形和が一般解です。という理論は成り立ちません。
特解の線形和が一般解になることが保証されるのはそれぞれの特解が独立であって
微分方程式の階数と同じ数得られている場合のみです。
各解が独立であるというのは解x1、x2に対し、
ax1+bx2=0
を満たすa,bの組み合わせがa=b=0以外に存在しないという意味です。
(ベクトルの独立性などとイメージは同じです。)
独立性についてはこれ以上詳しい説明はできませんが、
独立性を確認するためにはロンスキー行列の行列式を計算するなどの方法により
確認できるようです。
興味のある方は調べてみてください。
おわりに
以上、線形微分方程式の一般的な解法について説明しました。
数学が専門ではないので正確でない記述もあるかもしれませんが、
そこはご容赦ください。
工学の基礎としては十分な内容になっているのではないかと思います。
今回の説明では出てきませんでしたが、
微分方程式の解が振動状態を示すような場合があります。
これに関しては今回説明した内容の延長線上にあるので、
必要に応じて回転機械の振動の説明の中で説明していきたいと思います。